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横浜地方裁判所 昭和56年(ワ)1791号 判決

原告

伊熊清一

右訴訟代理人

杉原尚五

須々木永一

被告

橫浜市信用保証協会

右代表者理事

松宮理一郎

右訴訟代理人

上村恵史

會田努

北田幸三

被告

坂本建設株式会社

右代表者

坂本信正

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一東商事が昭和五一年八月一〇日三菱銀行から二口合計金三〇〇〇万円の貸付を受けたこと、右貸付に関し同月六日東商事と被告協会との間で保証委託契約が締結され、同契約に基いて被告協会が右貸付について東商事の保証人になつたこと、右保証委託契約において、原告は被告協会に対し、同協会が右保証に基く代位弁済をした場合に東商事に対して取得する求債権について、小沢勇、小沢静子と共に連帯保証をし、かつ担保物件の提供を約したこと、原告と被告協会との間で本件土地につき極度額を金三〇〇〇万円とする本件根抵当権設定契約(被担保債権の範囲は暫く措く)が締結され、その旨の登記がなされたこと、三菱銀行からの借入金三〇〇〇万円は昭和五三年四月七日東商事により完済され、両者間の取引が終了したことはいずれも当事者間に争いがない。

二一方、東商事が昭和五三年四月六日鎌倉信金との間で被告ら主張の約定を含む信用金庫取引契約を締結し、同金庫から被告ら主張の約定で金三〇〇〇万円の貸付を受けたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、右貸付に関し、同年三月二九日東商事と被告協会との間で、被告ら主張の約定を含む保証委託契約が締結され、同契約に基いて被告協会が右貸付について東商事の保証人になつたこと(被告協会が前記貸付について東商事の保証人になつたことは当事者間に争いがない)が認められ、被告協会がその主張のとおり昭和五四年九月二六日鎌倉信金に対して金二九九〇万五七五三円を代位弁済したことは当事者間に争いがなく、従つて同被告は東商事に対し、求償権として右金員及びこれに対する右弁済日の翌日から完済まで約定利率の年10.95パーセントの割合による遅延損害金の支払請求権を取得したということができる。

三しかして、被告協会が、右求償債権は本件根抵当権の被担保債権に含まれるとして、昭和五五年六月一七日本件根抵当権に基き本件土地に対する被告ら主張の競売を申立て、被告会社が昭和五六年六月二六日これを競落し、本件所有権移転登記を受けたことは当事者間に争いがない。

四問題は、本件根抵当権の被担保債権の範囲如何であつて、原告は、これは東商事と被告協会との保証委託取引による債権のうち、三菱銀行からの借入金に関する分のみに限定されると主張する。

〈証拠〉によれば、本件根抵当権の設定契約書には、被担保債権の範囲は東商事と被告協会との「保証委託取引による一切の債権」と記載されていることが認められる。右記載は、その文書にのみ従えば、民法第三九八条の二、第二項後段の「一定の種類の取引」を指定することによつて被担保債権の範囲を定めたものと解され、他に特段の事情がない限り、無限定に、東商事を委託者として被告協会との間で既に成立し、又は将来成立する一切の保証委託取引による債権が本件根抵当権の被担保債権に含まれることになるというべきである。

しかるに、原告は、本件根抵当権設定契約書に記載された「保証委託取引」なる文言は無限定ではなく、同契約書は被告協会の大量の同種事務処理の必要上定型的に作成された書式が使用されたまでで、当事者の意思は、本件根抵当権設定契約とこれに先立つ保証委託契約との密接な関連性から、同契約において原告と被告協会との間で成立した合意に従い、本件根抵当権の被担保債権を東商事が三菱銀行から受ける貸付に関する保証委託取引によるものに限定する趣旨に解すべきであると主張し、原告本人尋問において右主張にそう供述をする。

本件根抵当権設定契約に先立つて、東商事と被告協会との間で保証委託契約が締結され、同契約において東商事が三菱銀行から二口合計三〇〇〇万円の貸付を受けるについて被告協会に保証を委託すること及び被告協会が右貸付に対する保証に基く代位弁済をした場合に取得する求償権について、原告が小沢勇、同静子と共に連帯保証しかつ担保物件を提供することを約したことは前記のとおりである。

しかしながら、一般に、保証委託契約と根抵当権設定契約は互いに関連があるにしても、各別に締結される別個の契約であり、保証委託契約において特定の債権について担保物件の提供を約することと、これにつづく根抵当権設定契約において被担保債権の範囲を右特定債権に限定しないこととはなんら背馳するものではないこと、被告協会は中小企業者等が金融機関から貸付等を受けるについて保証をすることを主たる業務とするので同一の保証委託者との間で反復して保証委託取引をなす可能性があるから、現在の特定債権だけでなく、将来のかかる可能性のある複数の保証委託取引によつて生ずる求償権を包括的に担保するため、予め根抵当権を設定しておくことは関係当事者のいずれにとつても有用であること、仮に原告主張のように特定の保証委託取引による債権のみを被担保債権とするのであれば、右債権は将来具体的に発生する数額が未確定であるにせよなお特定された債権というべきであるから、これを担保するためには、根抵当権ではなく普通抵当権を設定すべきであり、かつ被告協会がこれに即応した定型的な契約書式を準備しておくことは困難なことではなく、事務処理上も大差がないと考えられることなどに照らすと、一般に、被告協会と保証委託者との保証委託取引による債権を担保するため担保提供者により設定された根抵当権の被担保債権につき前記のような文言の約定がある場合に、定型書式使用の如何にかかわらず、右被担保債権が根抵当権設定に先立つ担保提供の合意がなされた特定の保証委託契約による債権のみに限定されるといいえないことはいうまでもない。そして本件根抵当権に限つて当事者においてその被担保債権を原告主張の特定の保証委託契約による債権のみに限定する意思であつたと認めるに足りる特段の事情も見当らず、原告本人の前記供述は信用できない。

以上のとおりであるから、原告の前記主張は採用できず、本件根抵当権の被担保債権は、被告ら主張のとおり、被告協会と東事商との間の保証委託取引による一切の債権であり、二の東商事の鎌倉信金からの借入金に関する求債権も含まれるというべきである。

五そうすると、被告協会が本件根抵当権を実行したことはなんら違法ではなく、被告会社も競落により本件土地の所有権を有効に取得したのであり、本件所有権移転登記は適法である。

六よつて原告の本訴請求はいずれも失当であるから棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(佐藤安弘)

物件目録〈省略〉

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